『週活句会メンバーによる合同句集 WHAT 2013 Vol.1』
2013年9月1日、マルコボ.コム発行。
概要は表紙に印刷されているとおり。
Weekend Haiku AcTivities 18歳から20代までの方のインターネット「週末俳句活動句会」略して「週活句会」メンバーによる合同作品集
18歳から20代、具体的には俳句甲子園世代(出場の有無を問わない)によるメール句会から、有志16名が15句ずつ持ち寄って作った作品集、ということのようだ。
きわめてシンプルなデザインのお手軽句集だが、夏井いつき率いる「100年俳句計画」の一環として始動した「句集Style」シリーズのひとつらしい。
135mm×135mm、36ページ。
目次
指先に空 小鳥遊栄樹
水の記憶 安里琉太
硯の海 森直樹
感覚的宇宙 雀子
自由 ひで
リメイク 仮屋賢一
靫草 京極堂
何色 紫音
持ち帰る 希望峰
かさぶた 晶美
憶ゆる躯 川又夕
蛇口からポンジュース 夕加
水蜜桃 正人
朝との境 若狭昭宏
眼鏡の縁 ゆまるばたこ
ユニセックス 夕雨音瑞華
*
何人かとりあげて鑑賞してみよう。
パレットは真つ青 春の水流る 小鳥遊栄樹
のど飴を噛み砕きたる夏の果
小春日やパウンドケーキに気泡あり
破調気味の句をふくめて、どれも素直な詠みぶりといっていい。
言葉に無理をさせないというか、等身大の日常雑感に対して、やわらかい季語をうまく取り合わせた、という句が多い。句意も平明、明快で、いたって健康的な、若い作者の日常がうかがえるという点、実に嫌みがない。
とはいえそのぶん、力強さやインパクトもあまり感じられない。そのなかで印象に残ったのは次のような句。
夏空を舐めた味するやうな朝
サンダルに流星蹴つたやうな傷
似た形の句で、作者の得意なパターンなのかもしれない。
実際にパターン化してしまってはおもしろくないが、「夏の朝」や「サンダルの傷」という日常的な世界を、かなり強引で抒情に過ぎる比喩の世界にもちこみ、無理矢理まとめあげる体言止めの作り方は、はまれば強い。
*
悔しいけど君と私は似ていて春雷 雀子
ラズベリータルト晴天でよかった
蟷螂が死んだ何も言えずに死んだ
小鳥遊に比べ、季語の世界を超えた饒舌さが際立つ。
作者を中性的な、スイーツ系男子ととってもよいが、この饒舌さはやはり若い女性と見るべきか。加藤千恵『ハッピーアイスクリーム』を読んだときのような読後感。
(「いくつもの言葉を知ったはずなのに大事なときに黙ってしまう」「嘘をつくときが一番やさしかったあなたのことを恨んでいない」など)
そんななかで、
木星から帰ってこれないパプリカ
の舌足らずな突き放し方が一番俳句っぽいのでは、と思った。
色彩鮮明な「パプリカ」が、ガスに覆われた「木星」へ行ってしまうことも突飛だが、「帰ってこれない」状況、しかしよく考えれば(たとえ事実でも)まったく問題ない。その肩すかし感が、作者の一人語りのような句群のなかでちょっと異彩を放っている。
*
排気筒ふるはせ野焼見てをりぬ 正人
クロッカスクロッカス終戦はまだですか
鳥一羽ぶち込んで炊く立夏かな
本書の参加作家のなかではもっとも安定して好きな句が多かった。
「排気筒」の、何も言わず叙景に徹しながら「ふるはせ」の一語に心情を沿わせた一句。「クロッカスクロッカス」とほとばしるように口ずさむ、軽さと思いの深さ。「鳥一羽」の文字通り豪快な、おいしそうな感じ。
他には、
愛の詩を噛むブロッコリブロッコリ
もいい。上五からのうっとうしい、臭すぎる流れを「ブロッコリ」の軽さにつなげる。「ブロッコリ」のリフレインは、ブロッコリを噛むあの食感にも似て、青臭くも楽しい。
*
そのほかの作家から。
人参の顔とおぼしき箇所摘む 安里琉太
雀の子実家の時計遅れをり 森直樹
ずんずんと花野へ進む取材班 ひで
台車に虫ゐて今日から村に住む 仮屋賢一
月は多分一穿ちの穴なんだらう 京極堂
クロッカスわたしの好きな色よ咲け 紫音
雷やダーツ孤独を知つてしまふ 喜望峰
やはらかに闇はがしけり雛の燭 晶美
男ども通り過ぐ朝髪洗ふ 川又夕
結婚やしますしました青嵐 夕加
鳥の巣の蓋を探してゐる子ども 若狭昭宏
観月のおもちゃ箱よりシンデレラ
サングラスはずして会いたい人は誰 ゆまるばたこ
逃避願望果ては現実冬菫 夕雨音瑞華
ぞつとする明るさに溺れる四月
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