2021年12月31日金曜日

2021年回顧


「船団」が2019年に「散在」して以後、定期的に作品発表する媒体は持っていないのですが、ありがたいことに今年もいくつか俳句関係でお仕事をいただきました。
句作のほうは、メール句会を中心に活動しています。句数はかえって多いくらいですが、出来は当たったり外れたり。

一番大きかったのはなんといってもNHK俳句誌で特集記事を担当させてもらったこと。
「異界を詠む 妖怪と俳句の世界」ということで、
妖怪、お化け、幽霊など、目に見えない世界のモノと日本人がどうつきあってきたのか、歴史を溯り、古代中世の認識から現代俳句までを関連づけ、例句をあげながら概観しました。
解説、年表などはすべて久留島の文責に拠りますが、編集担当さんと何度も電話で打ち合わせし、NHK俳句の誌面に相応しい企画になるよう推敲を重ねたので、よい経験になりました。図版など、こちらからはもっといろいろな絵を提案したのですが「不気味すぎる」などの理由で却下されたものも多かった、とこっそり暴露しておきます(それでもネット上で絵が怖すぎるとの批判を目にしました、たぶん私はお化け絵に慣れすぎて麻痺しているのでしょう)。

 NHK 俳句 2021年 8月号 [雑誌] (NHKテキスト) NHK出版 日本放送協会

amazonなどではまだ購入は可能なようなのでよろしければどうぞ。

坪内稔典さんのブログ「窓と窓」で、何度か作品を掲載してもらいました。

久留島元の新作―日本の鰯雲

久留島元の新作―茸が踊り出す

「船団」会員作品をあつめた『あの句この句 現代俳句の世界』創風社出版、が5月に刊行。

 日本は妖怪の国春の川   久留島元

 蚊柱は奇術師たちの墓の上

「天狼を読む会」研究会は、オンラインで継続中。

次回は2022年1月15日(土)13:30~の予定です。ご関心のある方は亭主まで。

おなじみ、「週刊俳句」にも記事を一本書かせてもらいました。

【週俳7月9月10月の俳句を読む】 俳諧徘徊 久留島 元  週刊俳句 Haiku Weekly 第762号

久留島の仕事とはまったく関係ないのですが、今年は待ちに待った句集の刊行が、続々。

まずは、杉浦圭祐さんの『異地』邑書林
数年前から準備している準備していると聞きながら出ていなかった杉浦さんの第一句集。

 滝を見し者より順に声あぐる  杉浦圭祐
 ざり蟹の諸手を挙げて運ばるる

木田智美『パーティは明日にして』書肆侃侃房
関西で句会をともにしてきた、またKuru-Coleにも参加してくれている木田さんの、商業出版としてははじめての句集。歌集が多い出版元から出たというのも、俳句の枠組みとは違う発想をもつ彼女らしくて素敵です。

 ラズベリータルト晴天でよかった 木田智美
 妊娠の蜥蜴を這わせれば重し


塩見先生の「船団」時代を総括する句集、『隣の駅が見える駅』朔出版については記事を書かせていただきましたので省略。

塩見恵介『隣の駅が見える駅』を読む 曾呂利亭雑記


まさかの同時刊行となった堀田季何さんの『星貌』邑書林『人類の午後』邑書林

さまざまな詩型を横断し、国境も自在に飛びこえる堀田さんらしくさまざまな詩的実験にあふれた句集ですが、どちらもなぜか無理なく調和し、成立しているところが不思議で魅力的です。
破調で切れっ端のような句や、長律の連作を続けて詩として味わいたいようなものもあり、また別に句の力を感じるものもあり、諷刺として直截すぎると思うものもあり、次々と「読ませる」句ばかりでかえって一句を選ぶのが難しいのですが、読後、なんともいえぬ刺激で(句を創らなくては)という気にさせられた句集です。

 しはぶきて蛇や砂より砂を吐く 堀田季何 『星貌』「亞刺比亞」
 ぐわんじつの防弾ガラスよくはじく 『人類の午後』

年末になって相子智恵さんの第一句集『呼応』左右社が刊行。

相子さんとはNHK-BS俳句王国という今はなき番組でご一緒したご縁があり、そのときの放送回は10年前、東日本大震災の影響でしばらく延期になった、という思い出があります。

相子さんは、当時から若手には珍しい大ぶりで豊かな句を書かれる本格的な作家として衆目の期待するところでした。
紙媒体のみで発表した第一回Kuru-Coleにもご参加いただいたりしたのですが、このたび、本当に待望の句集を刊行され、作品をまとめて見られるようになったのは本当に嬉しい。

 群青世界セーターを頭の抜くるまで 相子智恵

年末ぎりぎり、ラストを飾ったのは西川火尖『サーチライト』文学の森

第11回北斗賞受賞。そしてKuru-Coleには二度にわたって参加いただいた作家。間違いなく、これからどんどん目にする機会が増えるでしょう。

 子の問に何度も虹と答へけり 西川火尖


みなさま、おめでとうございました。

来年もよい俳句に出会えますように。

2021年12月7日火曜日

【転載】京都新聞2021年11月16日 季節のエッセー(27)

 「鞍馬再訪」

先日、鞍馬寺を訪れた。
昨年の台風被害によって長らく止まっていた叡電鞍馬線が九月に再開し、緊急事態宣言が明け、紅葉シーズンの直前という絶好のタイミングである。
少し肌寒いが、秋晴れのよい日だった。

ちょうどこのエッセーでも、二年前のこの時期、鞍馬駅前の二代目大天狗像のことを書かせてもらった。
前回は一人で、山門から本殿まで歩いて引き返したのだが、今回は担当講義の学生たちを連れ、鞍馬寺から奥の院を抜け、貴船神社までの道を踏破する。
奥の院まで参るのは約十年ぶりだったで、外出自粛のなまった体にはやや不安が残るが、学生たちの前で弱音は吐けない。
鞍馬駅に着くと、初代大天狗はすでに撤去され、二代目が運転再開を喜んでいた。集まった学生たちに簡単な解説と注意事項を話し、のんびりでいいよ、と声を掛けて、まずは本殿を目指して歩き出した。

結論から言えば、山道は思ったよりも厳しくはなかった。
奥の院参道に進むと周囲に倒木を切り倒したあとが目立ち、台風被害の爪痕を感じたが、整備の直後ということもあるのか、むしろ以前より歩きやすい気がした。途中、「鞍馬寺」と書かれたカバンを持って登山道の点検をしている男性と行き会った。さすがに身軽で、休憩する我々をすいすいと追い抜いていった。

学生たちの反応はさまざまで、きれいな形のドングリを拾って喜ぶ余裕のある者、大きく遅れて息を切らしている者。日ごろ運動不足で、血行が急に良くなって足がかゆい、と言いだす学生もいた。
それでも学外を歩くような講義は久しぶりで、会話しながらの登山が楽しかったという声が多かった。

貴船神社から貴船口駅まで下って来ると、もう日没が近く、風が冷たかった。
帰りの電車内で学生たちと一乗寺のラーメン激戦区について話していたら、一人が早速食べに行くと下車していった。気軽に食事を楽しめる、日常は戻っているのだろうか。

気づけばこのリレーエッセーの担当も、あと半年弱。先月、大森静佳さんが卒業されたので、私が参加したときのメンバーは全員代わってしまったことになる。
時間が止まったようなパンデミックの間も季節はめぐるし、変わっていく。変わって、少しは良くなったのだろうかと自問する。(俳人)