2021年12月7日火曜日

【転載】京都新聞2021年11月16日 季節のエッセー(27)

 「鞍馬再訪」

先日、鞍馬寺を訪れた。
昨年の台風被害によって長らく止まっていた叡電鞍馬線が九月に再開し、緊急事態宣言が明け、紅葉シーズンの直前という絶好のタイミングである。
少し肌寒いが、秋晴れのよい日だった。

ちょうどこのエッセーでも、二年前のこの時期、鞍馬駅前の二代目大天狗像のことを書かせてもらった。
前回は一人で、山門から本殿まで歩いて引き返したのだが、今回は担当講義の学生たちを連れ、鞍馬寺から奥の院を抜け、貴船神社までの道を踏破する。
奥の院まで参るのは約十年ぶりだったで、外出自粛のなまった体にはやや不安が残るが、学生たちの前で弱音は吐けない。
鞍馬駅に着くと、初代大天狗はすでに撤去され、二代目が運転再開を喜んでいた。集まった学生たちに簡単な解説と注意事項を話し、のんびりでいいよ、と声を掛けて、まずは本殿を目指して歩き出した。

結論から言えば、山道は思ったよりも厳しくはなかった。
奥の院参道に進むと周囲に倒木を切り倒したあとが目立ち、台風被害の爪痕を感じたが、整備の直後ということもあるのか、むしろ以前より歩きやすい気がした。途中、「鞍馬寺」と書かれたカバンを持って登山道の点検をしている男性と行き会った。さすがに身軽で、休憩する我々をすいすいと追い抜いていった。

学生たちの反応はさまざまで、きれいな形のドングリを拾って喜ぶ余裕のある者、大きく遅れて息を切らしている者。日ごろ運動不足で、血行が急に良くなって足がかゆい、と言いだす学生もいた。
それでも学外を歩くような講義は久しぶりで、会話しながらの登山が楽しかったという声が多かった。

貴船神社から貴船口駅まで下って来ると、もう日没が近く、風が冷たかった。
帰りの電車内で学生たちと一乗寺のラーメン激戦区について話していたら、一人が早速食べに行くと下車していった。気軽に食事を楽しめる、日常は戻っているのだろうか。

気づけばこのリレーエッセーの担当も、あと半年弱。先月、大森静佳さんが卒業されたので、私が参加したときのメンバーは全員代わってしまったことになる。
時間が止まったようなパンデミックの間も季節はめぐるし、変わっていく。変わって、少しは良くなったのだろうかと自問する。(俳人)

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