天狗俳諧というものはあるが、河童俳諧というものはない。
ただ、河童と俳諧は相性がよろしく、数々の名句が残っている。
よく知られた
河童の恋する宿や夏の月 蕪村
では関西の方言によって「かわたろ」と呼ばれているが、ほかに「ドンガス」「ガラッパ」「エンコ」なども「河童」(または河童的水怪)をさす方言として認知されている。
「カッパ」が江戸周辺の一方言だったことは、しばしば私も紹介したとおりである。
川柳では川上三太郎が河童連作を残しており、三太郎の詩性川柳の代表作とされる。
河童起ちあがると青い雫する
この河童よい河童で肱枕でごろり
河童月へ肢より長い手で踊り
人間に似てくるを哭く老河童
河童はふつう季語と見なされないが、坪内稔典氏は『季語集』(岩波新書、2006)で夏の季語として「河童」をとりあげている。
泡ぷくんぷくりぷくぷく河童の恋 ふけとしこ
ふけさんの一句は、蕪村句をふまえた現代的変奏というべきだろうか。
俳句ではほかに、自らを河童に擬えた我鬼こと芥川龍之介の忌日(7月24日)を河童忌と呼び、これも好んで句材とする。
水ばかり飲んで河童忌過ごしけり 藤田あけ烏
河童忌と思い出し居り傘の中 伊丹三樹彦
河童忌の錠剤シートペきと折り 内田美紗
河童忌や紙を蝕むセロテープ 小林貴子
河童忌の火のつきにくい紙マッチ 生駒大祐
芥川と親交があり、河童の図を形見に持っていたという蛇笏にも、河童の句がある。
河童に梅天の亡龍之介 飯田蛇笏
河童は江戸文芸のなかで愛されたが、近代にも小川芋銭、清水崑らの絵画で、芥川、火野葦平らの小説で、また高度成長期以降は水質保全を訴えるエコキャンペーンのキャラクターとしても登場するようになった。
俳句に登場する河童も、民話的なものから、水神のおもむきをもつもの、動物的なもの、ファンタジックな妖精めいたものなど、様々な顔を見せている。
馬に乗つて河童遊ぶや夏の川 村上鬼城
河童なくと人のいふ夜の霰かな 中勘助
河童の皿濡らせるほどを喜雨とせり 上田五千石
いたづらの河童の野火の見えにけり 阿波野青畝
むかし馬冷やせしところ河童淵 鷹羽狩行
月見草河童のにほひして咲けり 湯浅乙瓶
*
走り梅雨カッパガラッパはねまわる 久留島元
愛されずして沖遠く出る河童の子
夏河童赤きくちばしひらきつつ
滝の上に河童あらわれ落ちていく
谷に恋もみあう夜の河童かな