「袋回し」
十二月といえば袋回し。
俳人共通というわけではないけれど、我々のグループでは、いつからかそういうことになっている。
袋回しというのは、俳句を作って読みあう句会形式のひとつだ。
参加者全員に封筒(袋)をひとつずつ渡し、それぞれが封筒の表に俳句の題を書き込む。題は季語でも何でもよい。季語以外の名詞、「走る」「笑う」などの動詞、漢字一字や、「カタカナを使った句」「京都らしい句」のようなテーマでもよい。
自分の書いた題を詠みこんだ句を封筒に入れ、時計回りに隣の人に渡す。
すると次の題がまわってくるので、また一句作り、次へ渡す。
一巡したら封筒をひらき、句会開始。どんな題が来るかは、封筒を見るまでわからない。題詠の瞬発力が試される。
句会ではお互いよいと思う句を選び、高得点句から順に批評しあっていくのだが、なにしろまず参加者と同じ数の題で句を作らなくてはいけないから大変だ。時間制限を設ける場合もあるが、隣の人が即吟派だと、次々に順番がまわってきて宿題のように封筒が重なっていく。
一方、反対側の人は暇そうに、お菓子なんかを食べ始める。
プレッシャー。
推敲している暇はない、どんどん作ってどんどんまわす。語彙が出なくなり、季語を思いつかなくなってからが本当の勝負。はじめは和やかだった場が荒れ、悲鳴や苦悶の声が漏れだす。
句会が始まってから、しまった五七五を数え間違えた、何度も直していたら肝心の題を入れるのを忘れていた、なんてミスに気がつくのもよくある話だ。
ある年の暮れ。幹事が「袋回しの最高得点の景品に蟹のセットをプレゼントする」と宣言した。知り合いの伝手で安く手には入るらしい。
ただでさえ忘年会を兼ねて出席者が多いところ、景品を聞いた参加者が増えて三十人近い人数になり、狭い会議室のなか、すし詰めになってひたすら句を作った。作句時間が終わると、みんなが一斉にため息をついた。しかし句会はここからだ。全員の句、つまり参加者の人数の二乗ぶんの句を読んで選ぶ。あの日景品を手にしたのは誰だったか。終わるころには疲れ果てて、まるで運動会のあとのようだった。