2010年11月20日土曜日

坪内稔典/川上弘美

 
坪内先生より、鬼貫賞のお祝いということで、出たばかりの新刊『坪内稔典コレクション2 子規とその時代』(沖積舎)をいただいた。買おうか、図書館で購入依頼しようか、悩んでいたところだったのでとてもありがたい。

本書は、単行本未収録や絶版などで現在入手困難になっている文章5篇を収めたもの。解題から収録論文について引くと、


  1. 正岡子規―創造の共同性(初出『シリーズ民間日本学者 正岡子規』19991年8月)
  2. 子規の俳句・子規の短歌―その根源的新しさ(初出『国文学』2004年3月)
  3. 漱石の俳句(初出『国文学』2001年1月)
  4. 虚子―人と生涯(初出『郷土俳人シリーズ3 高浜虚子』1997年7月)
  5. 架空対談「新傾向の論理」(初出『船団』1988年10月)

となっている。先日話題にした、高柳重信に対して坪内氏が持ち出した別の論理、「創造の共同性」を中心としたラインナップである。

最近後輩からはちょいちょい、実作より評論のほうに気持ちが傾いている、と指摘されるのだが、実作のお祝いで評論集をいただいたというのも、絶好の機縁。ちょうど気持ちの向いているときに、ネンテン先生の辿り着いた論理を改めて読み直すことができるのはありがたいことだ。これから何度も読み返すことになると思う。

もうひとつ、これは前々から楽しみにしていた、川上弘美氏の句集『機嫌のいい犬』(集英社)を購入してきた。
何が良いって、専門俳人による序跋が一切ないのがいい(笑)。
あとがきで、著者自身が述べているが、俳句に出会うための一冊としては、じつにいい本なのではないだろうか。

掲載順はいたってシンプルに、作句をはじめた1994年から2009年まで、15章。
以前、『ユリイカ』川上弘美特集で見た、初期の「暴れん坊」な時代の句に面白いものが多い。

はっきりしない人ね茄子投げるわよ  1994
海にゐる古船長のやうなもの  1995
鳴いていると鼬の王が来るからね  1995
初夢に小さき人を踏んでしまふ  1996

年代が進むにつれて、「俳句っぽさ」が増してくるけれど、そのぶん「暴れん坊」は影を潜める。そのなかで

秋晴や先生に酒おごらるゝ  1999
蛸壺あまたなべてに蛸の這ひ入りて  2000

などは『センセイの鞄』『龍宮』といった著作を想起させる。
ほかにも、

花冷や義眼はづしし眼のくぼみ  2001
鯉の唇のびて虫吸ふ日永かな  2001
目ひらきて人形しづむ春の湖  2002
きみみかんむいてくれしよすぢまでも  2002

のような、無機質にエロスを匂わせる句が、小説と似た空気でおもしろい。

ともかくこの句集、俳句にいままで興味が無くて、ただ言葉や小説を読むのが好き、というくらいのライトな文芸ファンには是非読んで欲しい。そういう人たちに、自信をもっておすすめできる句集だと思う。

俳句を、つくってみませんか。
この句集におさめられているのは、つくりはじめの頃の「暴れん坊」な―これは、はいくの先輩から苦笑まじりに言われた言葉です―句をはじめ、ぜんたいにつたない句ばかりです。そんなふうですけれど、もしもこの句集を読んで、少しでも「俳句、つくってみようかな」とお思いになった方がいらしたら、それはこの句集にとって、何よりの褒美となることでしょう。

『機嫌のいい犬』


※附記 11/21付の朝日新聞朝刊に集英社の広告があり、そのなかで川上さんの句集も掲載されていました。この調子で俳句以外の読者の目にふれる、手に取りたいと思われる句集であれば、句集にとっても俳句界にとってもいいことだろうと思う。

※附記 11/24、11/21リリースの「週刊俳句」187号に遅れてアップされた時評欄で『機嫌のいい犬』がとりあげられています。やっぱり初期の句のほうが面白いよなぁ。
週刊俳句 Haiku Weekly: 【週刊俳句時評 第18回】山口優夢
 

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