spica特集の「男性俳句」の感想をまとめようとしたが、どうもうまくいかない。
さすがに年越しして引きずるのもどうか、と思うのでとりあえずメモ書き風に感想を書き付けておく。
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内容は各所で紹介されているが、ざっとまとめておく。
まず本書は、神野紗希、江渡華子、野口る理、の三人によるユニットspicaの提供するもので、ウェブspicaの「書籍版」ということになる。
特集「男性俳句」として座談会2本、評論が4本エッセイ1本のほか、3人の作品や、「ふたりの鈴木」と題した鈴木しづ子、鈴木真砂女に関する文章(江渡、村越)、今田宗男氏(真砂女の孫)へのインタビュー、そのほかウェブ版からの転載記事など盛りだくさんの内容である。第1号、とあるから続刊もあるのだろう。
特集タイトルをはじめ聞いたときに咄嗟に想起したのは上野千鶴子の『男流文学論』(小倉千加子・富岡多惠子との共著、ちくま文庫で読める)で、正直なところ、一昔前のジェンダー論の再来か、と身構えてしまった。
もちろん実際にはそう単純なものではなかったのだが、結論から言うと、なぜあえて「男性俳句」というキーワードを打ち出したのか、私にはよくわからないままであった。
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座談会1本目は、榮猿丸、関悦史、鴇田智哉、という実力派男性3人(SSTというユニットでも活動)をspica3人が迎えるもの。
座談会冒頭、もともと俳句は男性中心であったが現在では女性の方が積極的である、というよく聞く話題が展開され、「結社レベルでは、むしろ男性の方がマイナーな存在」「価値観は変わってないんだけど、状況は変わってる」(いずれも榮)という現状が確認されている。
そこで関悦史氏から『男流文学論』に言及があり、
「男性俳句」という言葉自体が、ルサンチマンを持っているような。
と指摘され、結局「反語的」なものにすぎない、と指摘されている。
つまり、「女性俳句」というキーワードが無効化しつつある、というごく当たり前の現状認識があり、そのなかで反語的な「男性俳句」というキーワードを打ち出す違和感を、座談会出席者も覚えているのである。
特集全体に対する違和感は、ここに起因する。
カウンターは相手がいるから成立するのであり、何もないところにカウンターを用意しても何も起きないのは自明である。
このあと座談会は、
神野 こうして喋っていると、性別で語る限界を感じながら性別で語るというのは、不思議な感覚ですね。
野口 ……「そういう風に読みたい」っていう、読者の希望が関わってくるのかな、と思いました。その人が女性に求めるもの、男性に求めるものが現れてくるのかな。
と、読者論的な発展性をみせたところで終了に向かってしまい、
神野 「女性俳句」は、過去のそれとは違うものになっていくと思いますが、人々が俳句を読むときにストーリーや意味を求める心理は、これからもきっと変わらない。
という神野の総括があり、「女性俳句」も、俳句に物語性を取りこむパターンの一種にすぎない、と定義される。それをふまえて、
関 今、物語という点では、正社員・フリーター俳句とか、そういうほうが女性は行くよりも美ビットかも知れない。……むしろ、B型九州出身俳句とか。O型の俳句は大雑把です、とか。
野口 結局、つまりは、カテゴライズはあんまり意味のないことだってことに収斂されてきちゃう。
神野 「女性俳句」もジャンルのひとつになるくらい、時代が変わったと言うことですね。みなさん、今日はどうもありがとうございました。
と締められてしまう。
これには、ちょっと待って、とツッコミたくなる。
今一番ホットなこのメンバー集めて座談会して、見えたのはそれだけだったの?そりゃない。
このメンバーなら、ここからスタート、でよかったでしょう?
もちろん座談会というものは面白くなりかけたところで終わるのが常であり、単純に時間の制約もあっただろうと思う。
しかし。
「時代が変わった」「カテゴライズには意味がない」なんて、冒頭からみんなわかってたことやないですか。
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座談会のなかで興味深かったのは、男性俳句を選べ、という話題のなかで、榮猿丸氏が
一滴の我一瀑を落ちにけり 相子智恵
をあげ、若手では唯一リアルな大景を詠める「男性的」な作者だと評したことである。
そういえば「関西俳句なう」では徳本和俊が毎週若手の中から「男的一句」を選ぶのに四苦八苦しており、「いまの若手は男性的じゃない!」と愚痴っているのをよく聞いている。
どうも原因は徳本の怠慢だけではないのかも知れず、「男性俳句」が機能しない、と言う事実を現代作家論として注目してよいのではないか。
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読み直していくとほかにもいろいろ興味深い指摘はあったのだが、それでも結局の「不満」は残ったままだった。ひとまずそのことのみ、記録しておく。
ところで「男性俳句」という用語は比較的単純な反語(造語)なので、どこかの女性俳句特集で誰かが提唱していないだろうか、と思うのだが、まだ調べきれていない。
こちらは発見次第、報告することにしたい。
(未完)
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