2020年10月13日火曜日

【転載】京都新聞 2020.09.07 季節のエッセー(15)

「変わり目」 

食事時、使っている器が壊れそうになっていることに気づいた。

前から少しひびが入ってはいたが、いよいよ寿命のようだ。

我が家ではもっぱらシチューや煮物を入れるのに使っている深めの器、本当はカフェオレボウルといって、フランスではカフェオレを入れて飲むらしい。

休日に雑貨屋に寄ればいいだろうと思っていたら、妻が信楽まで足を伸ばそうと言う。それなら、と出かけることにした。

車を運転するのは妻である。

信楽では、三月まで放送されていた朝の連続テレビ小説「スカーレット」関連で観光協会主催の展示やモデルとなった女性陶芸家の作品展をやっていて、実はそれも見に行けたらと話していたのだった。

滋賀県が舞台だったこともあるが、放映中、あのドラマに我が家はすっかりハマってしまっていた。

何度失敗しても止められても穴窯に挑み続ける主人公や、お互いの才能を意識し、擦れ違いながらも新しい関係を築こうとする家族の姿は、途中コミカルな掛け合いを交えつつ、淡々として荘厳な印象さえ受けた。

創作、表現に少しでも関わっている人にとって、特に胸に迫る内容だったのではないか。

梅雨明け前の信楽でも、最高気温は三十度を超えていた。

会場入り口で手指の消毒や記名をうながされる。いまやおなじみの風景。

展示の内容はドラマで使われた昭和の舞台セットや小道具。マスクをつけた子どもたちが歓声をあげ、ドラマの登場人物の名前を呼んでいた。わかりやすい内容ではなかったと思うのだけど、よほど好きだったのだろうか。

私の小学生時代は、トレンディドラマの全盛期。熱心な視聴者ではなかったが、今「スカーレット」を見て成長していく子どもたちとは、社会を見る目はきっと違うだろう。

ニュースでもよく取り上げられる信楽駅前の大狸像は、マスクと法被で夏の装いだった。

カフェオレボウルは見当たらなかったが、駅隣接のお店でマグカップをひとつ買った。一品ずつ手作りの作品を仕入れているという。駅のお土産屋さんにしてこのクオリティー。

暑いのに来てくれたから、と箱詰めの料金をおまけしてもらったうえ、うまく包めなかったと言って紙袋までもらってしまった。そういえばレジ袋も有料になったのだった。

きっかけは様々だが、時代はいつも変化している。変わり目の、夏の思い出。(俳人)

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