起立礼着席青葉風過ぎた 神野紗希
高校二年のとき、俳句甲子園という大会に出場した。
ご存じだろうか。高校生が五人一組になり、俳句の創作力と、ディベート形式の質疑応答によって鑑賞力を競う大会で、毎年八月に愛媛県松山市で開催されている。
小説、漫画の舞台にもなり、最近は発起人である夏井いつき氏の出演番組でも取り上げられ、すっかり有名になった。
今年は第二十二回大会が予定されているが、私が出場した第四回大会のころは出場校も少なく、まだまだ地方の町おこしイベントという感じだった。
松山なら温泉に入れるぞ。お前は電車旅が好きだから旅の俳句作れるだろ。そんな適当な誘い文句で、気の合う友だちと参加した大会で出会ったのが、冒頭の句だった。
ちなみに初心者の私たちは初日の予選で敗退。掲句は二日目、準決勝で出された句だった。
教室の号令とともに青葉を揺らす一陣の強い風。窓の外は初夏の陽気。
わずか十七音が、高校生にとって身近な実感をありありと再現できることに衝撃を受けた。青葉の季節になるといつもこの句を思い出す。
受験もあって私はしばらく俳句から離れた時期もあったが、大学に入ると再開した。母校では、顧問の先生も本気になり、第七回大会では後輩のチームが全国優勝を果たした。以来、関西の出場校は、残念ながら優勝からは遠ざかっているが、洛南高校が出場を重ねており、三度の準優勝を経験している。
最近は滋賀、和歌山からも出場校が増え、今年の三月には彦根東高校、和歌山の県立海南高校でそれぞれ練習試合が行われた。
私は和歌山での試合に審査員として参加したのだが、驚いたのは、和歌山の高校生が彦根まで試合を見学に行ったり、大阪や兵庫の高校生が和歌山まで見学に来ていたり、とにかく高校生たちの熱心さだ。
今どきは学校や世代を超えて俳句の好きな若者がSNSでもつながっており、そんなことも活気づかせる要因になっているらしい。うらやましい。おじさんたちのころ、高校生はまだ携帯を持っていない人も多かった。俳句のやりとりに、学校のファクスを使っていたんだぞ。そんなことを思いながら、昭和生まれ、平成育ちの私は、平成生まれの俳句作家たちを見ている。
次の時代は、どんな時代になるのだろう。
(俳人)
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