2010年3月29日月曜日

キャスティング(3)


ここ十数年、若手俳人を特集したアンソロジーはほとんどなかった。
しかし、ここ数年総合誌の年鑑や各俳句雑誌では若手が注目されていたし、「俳句甲子園」、「芝不器男賞」「鬼貫新人賞」など若手奨励の大きな賞も目立っていた。従って、若手発掘の気運は充分に高まっていた。そんななかに生まれたのが、『新撰21』であった。
ここではまず、新撰組21人を、ヤジ馬的な立場で三つのグループに分けてみる。

・Aグループ、すでに大きな新人賞などを受賞しており、句歴・実力・知名度の高い人々。
・Bグループ、「俳句甲子園」出身の学生俳人や、総合誌の「若手特集」などで取り上げられることの多い、「若手俳人」たち。
・Cグループ、所属する結社やグループで評価の高い、注目の若手。

Aグループは、鴇田智哉、田中亜美、冨田拓也、高柳克弘、神野紗希氏ら。受賞こそ前後したが、相子智恵、佐藤文香氏も含んで良いかもしれない。

Bグループは、越智友亮、藤田哲史、山口優夢、谷雄介氏といった「俳句甲子園」組に、中本真人、村上鞆彦氏。比較的年長だが北大路翼氏といった人々を加えられる。

Cグループは、これは私の不勉強のせいもあるが、『新撰21』で初めてまとまった作品を読むことのできた人たち。ネットや年鑑で名前だけは知っていた、関悦史、中村安伸、豊里友行、五十嵐義知、外山一機氏ら。まったく未知だった九堂夜想、矢野玲奈氏ら。

こうして見ると、案外バランスよく実力者が取り上げられていることがわかる。

Aグループの人たちは、アンソロジー以前に名の知れた人たちでもある。もしも「発見!若き俳人たち」という帯の惹句が期待はずれだった……、という感想を持った人がいるとすれば、Aグループの人たちがおさまりすぎていたからだろうが、これはちょっと欲張りな要求で、誰が欠けても文句の出る名前ではある。

Bグループは、ちょっと問題がある。全員が東京在住人であることだ。関西出身で東京の大学へ進んだ越智を別にしても、東京の学生句会に出入りしているメンバーばかりである。竟宴において、松本てふこ氏が「東京にいたら会える顔ぶれ」と指摘したのはこの部分である。
関西に限らず、俳句王国・愛媛など、若者の句会は決して東京だけではないはずで、また地方にいるからこそ力を発揮する人も多いはずなのだが、実力者が地方に埋没することなく出やすいようなネットワーク作りができないものか。

Cグループは、一番議論のありそうな部分。今回のメンバーは編者たちにとっては当然ベストな顔ぶれだと自信を持っているはずだし、そう思わせてくれる顔ぶれでもある。しかし本当はそれぞれの結社でそれぞれ推薦したい若手がいるだろうし、誰が何年かかって選んでも「間違いない」選択ができるわけはないから、当たり前のように漏れた逸材は多い。

『新撰21』が特に20代作家を出来る限り取り上げるようにしたために30代作家は若干人数的な圧迫を受けている。『新撰21』に入るべきで、しかし取り上げられなかった(その際の基準は優劣というより、多様性という基準で判断したと私は思っている)30代作家も『超新撰21』に入る資格があると思っている。

筑紫磐井「『超新撰21』を告げる」

とはいっても、筑紫氏らが繰り返し「勅撰集」に擬す発言をすること(「竟宴」とは勅撰集撰進の祝いをさす語だそうな)は、結果的に「優劣」を意識させてしまうと思うのだが。



以前、私に身近な「船団」所属俳人を取り上げて『新撰21』にない方向性を探った。
「船団」がもっとも大切にしている「遊び」の要素が、『新撰21』には比較的薄味だったように思えたからだ。(もちろん遊び心を感じさせる作者はいたが、それぞれの作家にとってone of themでありmajorな面ではなかったように思われる)

取り上げられているメンバーについてだけでも、実は不満はある。
たとえば、高山氏も認めているが、小論執筆者のなかに作品で見たい作家が多かった。
そもそもこの小論執筆者は不思議な人選が多く、同じ結社や俳句サークルに属している比較的近しい人が書いている場合もあれば、まったく面識のない人が書いている場合もあるらしい。たしかにバラエティとしてはおもしろかったし、読み応えのある論が多く、繰り返し言うように「新人」たちの首途に対する見事なはなむけである。
にも関わらず、いくつかはやはり不満が残る。近しいところで言えば、江渡華子や松本てふこ氏は、やはり作品で見たかった作家である。(松本氏の北大路論は間違いなく書中屈指の好論であったが)

ちょっと大胆な提案をすれば、上のAグループのような「自力で有名」な人たちには、小論にまわってもらう可能性はあったかもしれない。
誤解を招くかもしれないが、Aグループの人たちはすでに注目の方々であり、総合誌で取り上げられる機会も多く、百句とはいかないまでもまとまった作品を目にする機会は多い。
一方、BやCグループの作品をまとめて読める機会というのはそうそうない。もっと、そんな人たちのための企画であってもよかった、というのが身勝手なナイモノネダリである。
幸いなことに、Aグループは作品も読み応えがあるが、論を張っても強い人たちが多い。鴇田智哉の村上鞆彦論とか、高柳克弘の北大路翼論とか、どうだろう。あるいは神野紗希の江渡華子論。個人的には、すごく読みたい。



私的、『新撰21』補遺。

・三木基史
1974年生まれ。「樫」所属。第26回現代俳句新人賞。
 少年に滑走路あり大夏野
 馬跳びの最後に冬を跳び越える
 雀の子天下国家を胸で押す
 初対面膝から秋を崩したり   
 オレンジのへそ雑音をとじこめる

・中谷仁美
1979年生まれ。「船団」所属。第1回鬼貫青春俳句大賞受賞。句集『どすこい』
 ふらここは揺れて帰ってこない人
 夏の日の文鎮となり象眠る
 失敬なやつだお前は雲の峰
 琴光喜おしりが勝つと言うて春
 網膜が悲しくなるの九月尽


・十亀わら
1979年愛媛県松山市生まれ。「詩学」「いつき組」。第7回俳句界賞。
 夫眠る躑躅そんなにひかるなよ
 さへづりの本気に近き空の色
 奔放な鼻もてあます花薊
 夜の色を引き込む春の鳥居かな

 


3 件のコメント:

  1. はじめまして。
    沖縄の写真家で俳人の豊里友行と申します。
    『新撰21』と『超新撰21』と選ばれる理由は意外とその時代の雰囲気を醸し出しているようにも思います。
    私などは『新撰21』に100句収録する頃に沖縄戦と米軍基地問題をテーマにした『沖縄 1999-2010』豊里友行写真集を編集中だったのでその影響をもろに受けています。
    『俳句界』2011年5月号に話題の新鋭として登場しますのでご一読いただけると光栄です。
    今後ともどうかよろしくお願い致します。

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  2. はじめまして。「新撰21竟宴」ではお目にかかれず残念でした。
    『俳句界』、拝読させていただきます、ありがとうございます。
    豊里さんの作品群はとくに時代の雰囲気、というよりも地域の空気、というべきでしょうか、を意識された作品ですね。そうした作品群がある一方、同時代、同年代であってもまったく違う作品を生み出している人たちもいる。「新撰21」のなかでもバラエティはあったかと思いますが、実際はそれ以上、だと思います。
    リンクを張っている「関西俳句なう」でも、若手の作家たちを紹介しております、ご覧頂ければ幸いです。

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  3. ブログ「とよチャンネル」でちょこっとご紹介させてもらいました。
    「船団」は活気のある俳誌だと思います。
    今度ともどうかよろしくお願い致します。

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